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2024年 9月10日
「聞く力発揮されず」と批判 岸田首相が退陣表明

裏金問題追及 「及び腰」に嘆き

 岸田文雄首相は8月14日の会見で9月の次期自民党総裁選に出馬しないと述べ、事実上の退陣を表明した。各紙は社説・論説で、退陣理由や時期への言及のほか、政策や手法を振り返り、岸田政権とは何だったのかを総括した。また、自民党や総裁選への注文も相次いだ。

 東奥、下野、岐阜、日本海、佐賀、大分合同などは「『政治とカネ』問題で内閣支持率が低迷し、退陣に追い込まれた形だ。国民の信頼を失った政権の末路を示したと言えよう」と厳しく断じた。さらに、南日本は「『勝てる顔』を求める党内の『岸田降ろし』の風圧にはあらがえなかった」とし、高知も「4月の衆院3補欠選挙の全敗などで党内の求心力が低下」したと、自民党内も離反していたと分析した。

 派閥パーティーに絡む裏金事件への対応に関し、朝日は「一連の対応は、小出し、かつ後手後手で、肝心の実態解明も関係者の責任追及も中途半端だった。政治資金規正法の改正も抜け道だらけで、抜本改革にはほど遠い。これで『国民を向いた決断』とはあきれる」と切り捨てた。茨城、山陰中央なども「自身が『火の玉』になると宣言しながら、事件の実態解明には及び腰」としつつ、政治資金規制法改正についても「『抜け道』や先送りが目立つ中途半端な弥縫策」と嘆いた。

 また、表明時期への批判もあった。中日・東京は「『全国戦没者追悼式』の前日に、なぜ表明しなければならなかったのか」としつつ、「追悼より自民党の生き残りを優先したとの批判は免れまい」とした。北海道も「『終戦の日』の前日であり、政府が国民に対して南海トラフ地震への注意喚起を進めている真っ最中」と指摘し、「政局的な判断を優先したとすれば、歴史観や危機対応を度外視した指導者としての見識を疑う」と断じた。
 一方で、岸田政権に評価できる面があったとの指摘も相次いだ。

外交・安保政策に評価も

 読売は「歴代内閣が『政策判断として持たない』としてきた敵基地攻撃能力についても、保有に舵を切り、安保政策を大きく転換した」とし、少子化対策についても「国難に立ち向かおうという決意に異論はない」とした。産経は、首相がロシアのウクライナ侵略に対して「国際社会が『ポスト冷戦期の次の時代』という嵐の時代に入った認識を持ち、『ウクライナは明日の東アジアかもしれない』と指摘した」と言及。外交判断を誤らなかったとした。日経は「抑制的だった原発政策を転換し、新増設に踏み切った」と評価。「日韓関係も改善した。日米同盟の深化と国際協調路線を進めた外交・安保政策は国益につながった」とまとめた。

 しかし、政策転換については批判も数多い。信濃毎日は「首相の『聞く力』は、賛否の割れる問題の片側の意見にしか向いていなかった。閣議決定などで主要政策を決定する政治手法の常態化は国会軽視であり、民主主義をないがしろにしている」と、手厳しい。岩手日報も「国の将来を左右する政策判断で、岸田氏が国民に約束した『聞く力』『丁寧な政治』が発揮されなかったことに厳しい批判は免れまい」とし、山梨日日も「丁寧な国会論議を抜きに決めた拙速さは、『聞く力』の重視とはほど遠い政治手法だった」と結んだ。

 政策や政治姿勢への疑問も投げ掛けられた。毎日は「看板となる政策も毎年のように変わり、何をやりたいのかが見えなかった」とした上で、「『先送りできない課題に一つ一つ取り組む』と繰り返したが、理念や哲学は見えず、多くの政策が人気取りのバラマキと映った」と嘆き、徳島は「『新しい資本主義』は最後まで意味が分からなかった」と切り捨てた上で、「子育て支援を拡充し、防衛費を増額するなら、国民負担の必要性を説明して理解を得るよう努めるべきだった」と訴えた。神奈川は「改憲論議の推進も唐突だった。一方、防衛費倍増や少子化対策の増税論は宙に浮いたままで、新政権に丸投げしたに等しかろう」と、一貫性や責任感のなさに苦言を呈した。

 核関連政策については、中国が、広島サミットで発表の文書は「被爆者の失望を招いた」とし、その理由として「G7の核は『防衛目的のために役割を果たす』と核抑止力を肯定した」ことを挙げた。「核兵器禁止条約に背を向け続け、核保有国と非保有国の橋渡しも果たさぬまま」と続け、これまでの取り組みを冷ややかに総括した。

自民総裁選 深い論戦を

 自民党に対しては、生まれ変わる覚悟を求める声が大半だった。熊本日日は「総裁選びを単なる看板のかけ替えに終わらせず、党を挙げて政治改革の道筋を付けてもらいたい。そうしなければ信頼回復は遠のくばかり」だと主張。神戸は「山積する課題について骨太の論戦を繰り広げるのが政権与党の責任だ。できなければ有権者に手痛いしっぺ返しを受ける」と、解散・総選挙をにらみ、中身の濃い政策論戦を総裁選に求めた。(審査室)

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