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2024年 11月12日
捜査、司法に検証求める 袴田巌さん無罪確定 

犯人視した報道を反省

 1966年の静岡県一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さんを無罪とする静岡地裁の再審判決が10月9日、確定した。中日・東京は「無実の人を罰する不正義。真犯人を取り逃がす不正義。無罪まで長い歳月を要する不正義」があったと総括した。報道の在り方にも猛省を促した事件であり各紙の社説は「その重大さを、関係機関は真摯に受け止めなくてはならない」(新潟)など、検証と再発防止に向けた提言を掲げた。

「不当な取り調べ」問題視

 静岡地裁は再審判決で犯行時の着衣とされた「5点の衣類」や自白調書などを捏造と断じた。信濃毎日は「有罪の認定を支えた証拠は、完膚なきまでに否定された」とし産経は「検察の完敗に等しい」と評価。毎日は「袴田さんが犯人だとの見立てに固執して、捜査が進められた結果」だと分析した。読売も「捜査機関が自分たちの都合のいいように証拠を作り出し、冤罪を生み出したのだとしたら、許しがたい」と指弾。熊本日日は「法と人道にもとる刑事手続きが連鎖し、袴田さんを死刑確定に追い込んだのは明らかだ」と批判した。

 再審判決に対する検事総長の不満の表明に対しても京都は「大半は判決内容に対する不満」だとした上で「『到底承服できない』とまで批判した。無反省ぶりにあぜんとする」との見解を表明。沖タイは「直接、謝罪することが信頼回復への一歩だ」と強調した。北國は「長期間に及ぶ身体拘束で自白を迫る『人質司法』や人格を否定するような取り調べは今もなくなっていない」とする。茨城、山梨日日、日本海、宮崎日日なども「最近も検察による『不当な取り調べ』が各地のさまざまな事件で問題になっており、検証結果を捜査・公判改革に生かしていく必要があろう」などと論じた。北海道は「取り調べの可視化の拡充や、取り調べへの弁護士の立ち会いの制度化は不可欠だろう」と主張した。

再審制度の課題指摘

 無罪までに長期間を要した再審制度の問題点への指摘も目立つ。山陽は、再審開始決定に検察が不服を申し立てることのできる現行制度が「審理の長期化を招いている」と強調。南日本も「決定的な証拠でも出てこない限り、検察が不服を申し立てる」と問題視した。

 朝日は「刑事訴訟法に再審手続きについての規定がほとんどなく、進行が担当裁判官しだいとなりがち」だと問題提起した。再審に関し刑事訴訟法に計19条の規定があるものの、70年以上改正されていないとし「袴田さんの再審から教訓をくみ取り、議論を重ねて冤罪救済に本腰を入れるべきだ」との主張も東奥、下野、岐阜、山陰中央、佐賀などからあった。福島民友は国会に対し「司法当局まかせにせず、改善に向けた議論」を進めてほしいと要望した。

 検察は再審公判でも有罪立証ができる。琉球は「検察に証拠開示を義務づけ、抗告ではなく再審で主張を展開させるよう規定を改めるべき」だと訴えた。山形も「抗告を制限し、開始決定で速やかに公判に移行する仕組みが求められる」と主張した。拘禁症状のため、無罪判決が言い渡された法廷に立てなかった袴田さんについて岐阜などは「失ったものはあまりにも大きい」とした。中国は時間がかかる現行の手続きでは捜査をやり直すにも「新たな証拠は見つけにくい」と指摘した。

 北日本は、捏造の疑いが指摘された5点の衣類の写真について「地裁の勧告を受けて検察はようやくカラー写真などを開示した。重要な証拠にもかかわらず、刑の確定からじつに30年後のことだった」と強調した。秋田魁も「もっと早く開示されていれば、無罪判決も早まっただろう」と悔やんだ。

 死刑制度への言及もある。神戸は「先進国で死刑制度を維持するのは日本と米国だけだ」と指摘。愛媛は制度の是非も含め「刑事司法の在り方を議論する出発点にすべきだ」と訴えた。山口も「政府はできる限り多くの情報を公開し、国民的な議論を促すべきだ」とした。

 日経は「袴田さんが逮捕された後、犯人と決めつけるような報道があった。偏った報道が冤罪に加担した面はなかったか」と自問。静岡は「報道してきた立場からも無罪判決を真摯に受け止めて、反省しなければならない」と表明した。

 徳島は「捜査をチェックできなかった新聞などの報道が冤罪につながった側面も否定できない」とし、西日本も「発生当時、警察発表をうのみにし、袴田さんを犯人視して報道したメディアも責任を免れない」と述べた。高知も「当初は袴田さんを犯人視する報道を続けた。真摯に反省し、今後に生かさなければならない」とした。

 河北は「冤罪という国家犯罪を繰り返さぬよう行動を急ぐべきだ」。岩手日報は「この『勝利』を、冤罪被害者の人権擁護への確かな一歩にしなければならない」と結論付けた。(審査室)

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