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2024年 12月10日
社会の分断深刻化懸念 大統領選 トランプ氏再選で
米国第一主義 回帰を憂慮
米大統領選挙は、共和党のドナルド・トランプ氏が、民主党のカマラ・ハリス氏との激戦を制して当選を果たした。4年ぶりの政権復帰を決定づけた推進力は何だったのか。トランプ氏が掲げる「米国第一主義」が、国際秩序や経済にどんな影響を及ぼすのか。各紙の社説では懸念や憂慮、注文とともに、日本政府が果たすべき役割も論じられた。
独善排す融和の政治期待
毎日は、敵と味方を分ける構図を作り上げることで支持を集めたトランプ氏の手法を批判。「白人と非白人、エリートと非エリートの溝を広げ、多様性を巡る議論を先鋭化させた。非寛容な社会の固定化が進む恐れがある」と、米国社会でさらに分断が深まることを懸念した。
西日本は、選挙中の暗殺未遂事件を経たトランプ氏が「強さ」の演出を意識していた点を指摘。超大国の大統領職に米国民が常に強さを求めてきた歴史に触れ、「そこに『男性性』を重ねる偏見が、初の女性大統領誕生をまたも阻んだ面は否めまい」と分析した。
読売は、記録的な物価高が進み、不法移民が急増するなど、社会不安が今回の結果の背景にあり、バイデン政権の中枢にいたハリス氏にも、厳しい批判が向けられたと指摘。「米国の利益だけでなく、世界の平和と安定を主導してこそ偉大と言える。トランプ氏がその意味で、偉大さを取り戻すという約束を果たすことを期待したい」と記した。
日本海、佐賀、大分合同などは「国民の強い信任を得た今だからこそ、独善を排した融和の政治を期待する」「モットーの『米国を再び偉大に』を真に実現するなら、自身に反対する国民や政治家の協力も必要なはずだ」などと論じた。
世界情勢への影響では、中日・東京が「世界で権威主義が台頭する中、民主主義国家をけん引すべき超大国の分断と暴力、『米国第一主義』への回帰を深く憂慮する」と指摘。進行する二つの戦争への影響を見据えた視点も多かった。
岩手日報は、イスラエルを無批判に擁護する姿勢について「紛争を中東全体に拡大させるリスクを高める」と主張。徳島は、ロシアのプーチン大統領との良好な関係を誇示するトランプ氏が「ウクライナへの支援に消極的で、国土の割譲を迫る可能性がある」とした上で、「力による現状変更を認めれば、インド太平洋地域で威圧を強める中国を増長させかねない」と訴えた。
熊本日日は、対立が深まる中国との関係について、トランプ氏が対中関税の引き上げで対抗する構えを見せていることから、「貿易を巡る駆け引きが過熱すれば、台湾情勢が緊迫する可能性がある」と予測した。
経済政策では、外国からの輸入品に高関税を課すトランプ氏の方針に加え、自国の利益のみを追求する「ディール(取引)外交」を推し進めることへの懸念が多かった。
日経は「国際社会は、とくに排他的な貿易政策が世界を混乱に陥れぬよう動向を注視し、対応すべきだ」と指摘。信濃毎日は「世界経済が減速すれば米国にも弊害が及ぶ。グローバル化した世界で一国のみの繁栄はあり得ないことを自覚すべきだ」とした。日本農業は、最初の政権時に、環太平洋連携協定(TPP)から離脱したことを挙げた上で、「輸入関税引き上げなどをてこに相手国に譲歩を迫る通商政策が再来する可能性」に言及した。
日米関係 先行きに不安
「いま世界に求められるのは、自国第一主義の拡散に対する歯止めである」と指摘した朝日は、日本に求められる役割として、「あらゆる多国間枠組みと二国間協議を駆使して紛争を防ぐ秩序づくりを主導するべきだ」と訴えた。
産経は、世界の経済成長の中心地としてインド太平洋地域の重要性を挙げた。米国にとり、地域最大の同盟国である日本などとの協力が欠かせないとした上で「石破茂政権はトランプ氏側と早期に接触し、信頼関係を築かねばならない」と強調した。
トランプ氏の前回の政権時、首相だった安倍晋三氏が良好な関係を築いていたことを挙げ、「石破茂首相にそんなまねができるとは思えず、日米関係の先行きも気掛かりだ」(北國)という指摘もあった。
米軍基地を抱える沖縄への影響も、地元2紙が取り上げた。琉球は、玉城デニー知事が9月の訪米で米軍人による性暴力への対処を求めたことを挙げ、「トランプ次期政権とも接点を築き、沖縄の声を訴える必要がある」「地域外交の真価が問われている」と論じた。沖タイは、沖縄の「負担軽減は日米共通の認識であり、トランプ氏の剛腕で今こそ実現するべきだ」と主張した。(審査室)