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2025年 3月11日
「侵攻側優先」の姿勢批判 米仲介のウクライナ和平案
当事国不在の危うさ指摘も
ロシアのウクライナ侵攻から3年。トランプ米大統領による停戦仲介交渉は、ウクライナのゼレンスキー大統領との会談で激しい口論が繰り広げられるなど、予測不能な展開をみせている。2月12日、ロシアのプーチン大統領との電話会談で交渉開始が合意されたが、当事者であるウクライナの頭越しという異例の形で進められようとしている。各紙の社説は停戦交渉の開始を評価する論評が大勢ながらも、トランプ氏の公正さを欠く姿勢に厳しい批判が相次いだ。
今回の停戦機運については、逃してはならないとの指摘が多い。琉球は「死と隣り合わせで生活している一般市民のことを思えば、戦争終結の交渉開始に希望をつなげたい」とし、南日本も「戦闘の一刻も早い終結を実現し、ウクライナの恒久的な平和への道筋を見いだしてほしい」と期待を寄せる。
トランプ氏のロシア寄りの姿勢には、懸念の声が相次いだ。西日本は「ウクライナの主張を軽視する言動が顕著」とした上で「戦争終結後の姿は、明らかにロシアに有利なものばかりだ」と批判。中国も「侵攻した国のロシアを優先し、肩入れした交渉は認められない」、北國も「和平案がロシア側の主張に大きく歩み寄るようなら、侵略者が利益を得ることになる。あしき前例を残してはならない」と断じた。また、沖タイはトランプ氏の「ウクライナは戦争を始めるべきではなかった」との発言に対し「ウクライナがロシアに侵攻したのではない。ロシアがウクライナに侵攻したのだ」と非難した。
国際秩序の崩壊危惧
毎日は「ウクライナの頭越しで交渉を進め、それを押し付けるなら、独善が過ぎる」と交渉姿勢に苦言を呈し、「『力による現状変更』を許せば、国際秩序の弱体化が進む」と警鐘を鳴らす。熊本日日も、ロシアへの領土割譲を停戦の取引材料にすることは、「武力による領土獲得を認めることになり、国際秩序の崩壊につながりかねない」と指摘。北海道、新潟などからも、国際秩序が崩れかねないと危惧する論評が相次いだ。また、福島民友が「台湾への威嚇を強める中国などに対し、武力攻撃が権益に直結するとの誤ったメッセージを送ることにもなる」と記したように、東アジアの危機につながるとの指摘もみられた。
ロシアに融和的なトランプ氏の姿勢を、歴史をもとに懸念する視点もあった。朝日は英仏がナチスドイツの領土拡張を容認した1938年のミュンヘン会談が、第2次世界大戦を招いた経緯を踏まえ、「侵略に手を染めた独裁者の危険性を過小評価した帰結だ」とくぎを刺す。「当事国は、自身が不在の場でその運命を決められてしまった」と大国主導の危うさも指摘。中日・東京も「独裁者への宥和政策は逆効果だ」とし、信濃毎日も「プーチン氏が次の戦争を仕掛けることを防がなければならない」と訴えた。
また、米ロ両大国のみによる協議については、読売が「第2次大戦末期の『ヤルタ会談』を彷彿とさせる」と言及。米英ソ連による戦後体制合意の結果、「東欧の国々は半世紀もソ連の『衛星国』として扱われた」「大国同士の思惑に、小国の運命を委ねるわけにはいかない」と、交渉にウクライナや欧州を加えることを、強く求めた。
山口は「ロシアが不法占拠した領土を決して返そうとしないことは、北方領土問題に悩む日本人がよく分かっている」と指摘。日経は、石油・天然ガス輸出制裁を大幅に強化した上、液化天然ガスの輸出拡大を急ぐ米国がロシアの輸出先を奪う戦略を明確にできれば「長引く戦争で疲弊しているロシア経済への脅威になる」と、ロシア締め付けの一案を明示した。
日本や欧州の関与促す
日本の関与を巡り、産経は「ウクライナでの戦争は、日本を含むインド太平洋の安全保障と直結している。日本はウクライナと同様にロシアに北方領土を不法占拠されてもいる。石破首相はもっと停戦問題に関わるべきだ」と迫る。福島民報も「石破茂首相に当事者意識はどれほどあるのか」とし、「米政権に国際秩序を毅然と迫ってもらいたい」とただした。
停戦後の姿について、茨城、下野、岐阜、日本海、山陰中央、大分合同などは、「最も重要なのは、ウクライナの安全を確実に保障する仕組みに道筋をつくることだ」とし、プーチン氏に再侵攻しないことの確約や、あった場合の検証方法などを文書で明示すべしとした。東奥や上毛、山梨日日、佐賀、長崎などは「米国が『ウクライナは欧州の問題』と突き放すのであれば、欧州が安全保障に関与し、防衛するべきだ」とした。
荘内は「停戦は急がねばならないが、ただ、それにはウクライナの人々の『心』を満たす条件が整った上であることは言うまでもない」と、侵略されたウクライナに寄り添った交渉を訴えた。 (審査室)